『My Story』
~ミホ・ワールド~
14歳。処女喪失

14歳。

ある祝日、わたしの両親が
日帰り温泉旅行に
連れて行ってくれると言った。

あまり気の進まなかったわたしは
「行かない」と断った。

これが幼少期だったら
楽しみだったかもしれないが
すでに年頃のわたしには
両親との温泉旅行は
あまり魅力のないものだった。

なにより、父の酒癖が悪かった。
温泉なんて
どうせ宴会をして
父は泥酔するにきまってる。
そうして
最後は母と夫婦喧嘩になって
......そんな展開の旅行にきまってる......


母が言った。
「どうせだから
ユタカくんを誘ってもいいわよ」

ユタカはわたしの
当時のボーイフレンドだった。
「ユタカを誘ってもいいならば
ちょっとは楽しくなりそう」

ユタカとわたしの旅行ではないけれど
なんとなくテンションは上がってきた。

ピンクの洋服を選んで
わたしは支度をした。

当時、少し大きめの八人乗りの
ワゴン車だった我が家の車。
出発時間になって
ユタカも来てくれて
車に乗り込もうとしたら
見知らぬ男性が突っ立っていた。

誰?
不気味な雰囲気のその人に
わたしは尻込みをした。

「どなたですか?」

すると、父がやってきて
「ああ、お父さんの友人のスズキ。
こう見えても、いいヤツでねえ。
誘ったんだよ」と
わたしにスズキさんを紹介した。

「どうも、スズキです。
温泉でたっぷりと遊びましょう」
スズキさんはニヤリと笑った。

父が運転して母が助手席で
楽しそうにしていた。

わたしもユタカとお喋りしながら
車中を過ごした。

わたしには弟がいたから
面倒を見なくちゃ、と思ったけれど
弟は車に乗るや否や
スヤスヤと寝息を立てて眠り始めていた。

結構、気を遣ってしまうわたしは
スズキさんが一人で気の毒に思えて
ちらりと様子を伺った。

わたしと目と目が合ったスズキさんは
最初のときに見せた
ニヤリとした顔以上に
不気味な笑いを
わたしに返してよこした。

スズキさんのこと
なんだか心配をしなきゃ良かった、と
わたしはまたユタカと
お喋りの続きをした。


旅館にたどり着いて
温泉に入るよりも先に
まずは宴会になった。

父はアッという間に
酔ってしまって
母も酔っていた。

スズキさんは
「お酒に弱い」ということで
アルコールには手を出さずに
お茶やらソフトドリンクを飲んでいた。

「ねぇ、お母さん
いい加減に温泉に入ろうよー」

わたしと弟は
母に催促をしたが
わたしの言葉など
耳に入ってはいない様子だった。

日頃の仕事の疲れからか
母はお酒を飲んだあと
昼寝をし始めた。

父はといえば
やはり泥酔状態になっていた。

「お母さん、お母さん
温泉に入ろうよ」

「あたしは今、眠いのよ、入っておいで」
母はわたしに弟を託した。

弟をどうするべきか
しばし、悩んだ。

それこそ、一緒に入るには
わたしも気恥ずかしいし
ユタカに弟の世話を
お願いしてもいいものなのか

スズキさんが
「じゃあ、わたしが子供さんたちを
お風呂に連れていきましょう」と
言ってくれたが
なんだかイヤだな、と思った。

「いいえ、スズキさんは
お父さんたちと一緒に楽しんでください。
弟の世話はユタカに頼むし
わたしは大丈夫なんで」

スズキさんは
ねちっこい声で執拗に言った
「一緒にお風呂に行きましょう」

母は「鈴木さんのお世話になりなさい」
そう言って、また眠りの夢の世界へ。

泥酔している父は
まったくアテにならなかった。


スズキさんとユタカと弟とわたしの4人で
温泉へ続く廊下を歩いた。

温泉は客室からは
"離れ"の場所で
ひっそりとしていて
その時間帯は
わたしたちしか温泉客はいなかった。

スズキさんが言った。
「ユタカくんたちは、ちょっとだけ先に
入っていてほしい」

変な人、とわたしは思った。
ユタカは
わたしの弟の面倒をみてくれようと
サッサと、男湯の、のれんをくぐって
入って行ってしまった。

「じゃあ、わたしも
お先させてもらいます」と
わたしは女湯の
のれんをくぐろうとした。

その瞬間
スズキさんに腕をつかまれた。

「忘れ物だよ」
「えっ?」

振り向いた途端に
スズキさんはわたしの唇を
タオルで覆った。

声が・・・
声が出せない・・・

「お洋服は僕が脱がせてあげようね」

塞がれてしまった口からは
助けが呼べない。


14歳。

いろんなことを夢見てた。
いつか好きな人と結ばれる夜を
夢見てもいたし
いつか来るはずの『その日』を
幼いなりに待ち焦がれていた。

こんなに無残な形で
『初めて』を思い知ることになろうとは
予想もしていなかった。


14歳。
飛び散ったピンクの洋服。
飛び散った夢。


痛かった。
怖かった。
痛かった。
怖かった。

悪夢から解放されたあとも
わたしは動けなくなったまま
倒れこむようにうずくまった。


やがて
温泉から出てきた
ユタカと弟は
裸体で半分気絶しているわたしを
目の当たりにして
あとずさりした様子だった。

ユタカは反射的に
わたしの弟のを抱きかかえて
「お姉ちゃんを見ないであげて!」と
叫んでいた。

ユタカは言った。
「待って、人を呼んでくる!」
「お願い、呼ばないで」

...ユタカにすれば
それが精一杯だったのだろう...

わたしは
のろのろと着替えた。

そして壁伝いに歩こうとしたが
やっぱり歩けなくて
その場にしゃがみこんだ。

しばらくして父と母が来た。
「なんかあったらしいからって
飛んできたのに
なんだ、お前、眠いのか?
こんなところに倒れこんで
なにやってるんだ」

父が
「せっかくの酔いを醒まさせるなよ」と
わたしを罵倒した。

母は
「お風呂からなかなか出てこないなんて
マイペースもいい加減にしなさい」

わたしは、もう、言葉がなかった。

ユタカは目をそらしたまま
もうこっちを向いてはくれなかった。
目をそらしたままでいてくれたことは
あのときのわたしにとっては
救いだった。
ユタカに対しては
ただ、ただ恥ずかしかったから。


14歳でわたしは
よごれてしまった。

あれから
たくさんのたくさんの歳月が
流れても
あのときの痛みと恐怖と屈辱は
蘇る。


歳月はどんな出来事をも
忘れさせる?

そんなことは、ない。

わたしは
わたしが思っていた以上に
未だに傷ついているままだ。

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